パーキンソン病外来

パーキンソン病について

パーキンソン病はなぜ起きるの?

私たちが目的行動を起こすとき大脳皮質からの指令を手足の筋肉に伝えて動かします。 この大脳皮質の指令を調節し、目的行動をスムーズにしているのが脳内のドパミンです。 パーキンソン病ではこのドパミンが減ることによって発症します。 ドパミンが減ると動作がゆっくりで歩きにくくなり、手の震えが出たりします。 ドパミンは中脳の黒質ドパミン細胞で作られていますが、年齢とともに自然に減ってきます。 パーキンソン病の患者さんでは減少が早くなっています。
ドパミン細胞が急に減少する原因は不明ですがドパミン細胞の中にαシヌクレインというタンパク質が凝集して、ドパミン細胞を傷害してパーキンソン病を発症すると考えられています。 稀に家族性に発症する場合がありますが、ほとんどの患者さんは遺伝性を示しません。 食事や職業、住んでいる地域など原因となる特別な理由もありません。

高齢になるほどパーキンソン病を発症する割合が増えます。 本邦では10万人あたり100〜150人くらいで認知症に次いで多い神経疾患です。 40歳以下で発症することもあり「若年性パーキンソン病」と呼ばれますが、ほとんどは高齢者で60歳以上では急激に増えて10万人に約1000人と多くなっています。

パーキンソン病の4徴候

安静時振戦:イメージイラスト

安静時振戦

筋固縮:イメージイラスト

筋固縮

無動・寡動:イメージイラスト

無動・寡動むどう かどう

睡眠時無呼吸症候群の症状:イメージイラスト

姿勢反射障害

どんな症状がでますか?

パーキンソン病の症状には、自分の目的行動がスムーズにできないなどの運動症状と便秘やうつ状態など非運動症状が現れます。 また、行動がスムーズにできない似た症状が現れる病気がいくつかあり「パーキンソン症候群」といいます。 これらはパーキンソン病とは治療法が違います。 パーキンソン病を疑った時には専門の医師に相談して正しい診断を受けることが大切です。

運動症状

パーキンソン病では特徴的な運動症状がみられ、診断の手がかりになります。それらの症状は、

  1. 歩行などの動作がゆっくりで時間がかかります(無動)、
  2. 手の震えがゆっくり座っている安静時にも現れます(静止時振戦)、
  3. また補助的に、患者の肘や手首の関節を曲げ伸ばししてみると筋のこわばりがカクカクとした抵抗として感じられます(筋強剛)。

さらに病状が少し進行すると、

  1. 運動時、とっさに姿勢が保てなくて転倒しやすくなります(姿勢反射障害)。

これらをパーキンソン病の4大症状といいます。 他に最初の一歩がなかなか出ないすくみ足や前傾姿勢で手を振らないですり足の小股歩行、他に嚥下障害などがみられることがあります。

診断は特徴的な運動症状のうち

  1. 無動(動作緩慢)があり、
  2. さらに静止時振戦または筋強剛があればパーキンソン病を疑います。
  3. また、振戦や筋強剛の症状はまず片側の手足に現れます。両側にみられても左右で程度に差があります。
  4. さらに治療薬のL -ドパを投与して明らかに症状が改善すればパーキンソン病と考えられます。
    (診断に治療薬の効果が入っているのは類似するパーキンソン症候群と区別するためです。そのほかに頭部のCTやMRIによる画像診断も参考にします。)

非運動症状

パーキンソン病は運動症状で診断されますが、その他にさまざまな非運動症状がみられます。 これらの中には運動症状の数年も前から現れるものがあります。

  1. 自律神経症状として、便秘や頻尿、起立性低血圧があります。
  2. 精神症状として、うつ状態、不安、アパシー(身の回りのことに関心が薄れて無為無欲状態)、認知症、幻覚や幻視など。
  3. 睡眠障害嗅覚障害など。

パーキンソン病の特徴的な症状

前かがみな姿勢:イメージイラスト

前かがみな姿勢

小刻み歩行:イメージイラスト

小刻み歩行

仮面様顔貌:イメージイラスト

仮面様顔貌かめんようがんぼう

声量低下:イメージイラスト

声量低下

小字症:イメージイラスト

小字症

パーキンソン病の重症度分類について

パーキンソン病は原因不明で症状が徐々に進行してゆく病気ですが、進行の程度はそれぞれ人によりさまざまです。
パーキンソン病の進行度の指標として「ヤールの重症度分類」が5段階で示されており、診断や治療に広く用られています。 

  1. 体の片側だけにふるえや筋肉のこわばりがみられるが、日常生活の障害はないか、あっても軽度。
  2. 両方の手足にふるえや筋肉のこわばりなどがみられる。日常生活や仕事にやや不便を感じるが、自立して生活できる。
  3. 小刻みに歩く、すくみ足がみられ、方向転換の時転びやすいなど姿勢反射障害で日常生活に支障が出るが、介助なしに過ごせる。
  4. 転倒しやすく立ち上がりや歩行が難しくなり、日常生活の一部に見守りと介助が必要になる。
  5. 一人で起き上がったり、歩けなくなり、移動には介助と車椅子が必要になる。

厚生労働省が定めた「難病医療費助成制度」を受給するためには「生活機能障害度分類

  1. 日常生活、通院にほとんど介助を要さない。
  2. 日常生活、通院に部分介助を必要とする。
  3. 日常生活に全面的に介助を要し、独立で歩行、起立ができない。

の内、ヤールの3度以上で生活機能障害度Ⅱ度以上の場合とされています。

パーキンソン病の治療について

薬物療法

パーキンソン病の薬物治療は、L -ドパを内服して脳内の枯渇したドパミンを補うことが基本になります。 またドパミンを受け取るドパミン受容体を直接刺激するドパミンアゴニストも使われます。 いろいろな治療薬が開発されています。以下に説明します。

  1. L -ドパ:パーキンソン病治療薬の中心となる薬です。 脳内でドパミンに代謝されて不足しているドパミンを補うことで、元のように動けるようになります。 ほぼ全ての患者さんで有効です。(パーキンソン病の診断基準にもL -ドパで効果があることが入っています。) 初めの数年間は病気が治ったかのようにスムーズに動けるようになります(ハネムーン期)。 しかし長期治療では病状の進行にともなって増量が必要になり、しだいに効果が不安定になり(ウェアリング・オフ期)、ジスキネジアなど運動合併症をみることがあります。
  2. ドパミンアゴニスト:ドパミン受容体作動薬ともいい、ドパミンに代わってドパミン受容体に結合してパーキンソン症状を軽減します。 L -ドパと比較すると作用時間が長く、血中濃度が安定するように内服徐放剤や貼付剤などが工夫されています。
  3. そのほかに脳内ドパミンの分解を遅らせて効果を高める薬など各種の内服薬が開発されています。 患者様の病状に合わせてこれら複数の薬剤を組み合わせて処方します。 したがってパーキンソン病治療の処方は患者様それぞれで薬の種類、投与量、内服回数などが少しずつ違ってきます。 薬の形状も経口剤(飲み薬)だけでなく貼付剤(皮膚から吸収され1日中安定した血中濃度を示す)などがあります。
副作用について
  1. 食欲不振、吐き気、めまい:内服を開始した当初にみられることがあります。 初めは少ない量から開始して週ごとに少しずつ増やしてゆく、吐き気止めと一緒に飲むなどでしだいに慣れてこれらの症状は気にならなくなります。
  2. 幻覚や幻視:病状が進行し投与量が増えたときに現れることがあります。 最後に増量した薬剤を減らし、幻覚のでにくい他の薬剤と組み合わせます。 (投薬初期からみられ、症状の変動が大きいときにはレビー小体認知症などが疑われます。)
  3. 異常運動ジスキネジア:体を揺り動かす、口をもぐもぐ動かすなど無意識の運動をみることがあります。 内服薬が吸収され血中濃度が過剰になったときに現れやすいので内服薬を少し減量し、血中濃度が安定している貼付剤などの併用を考えます。
    *これらの副作用をみたときには遠慮なく主治医に相談してください。 自己判断で内服や投薬を変更したり中止しないでください。
    突然の内服の変更や中止は急激な病状悪化(全身硬直、高熱、意識障害など)を起こすことがあり危険です。

運動療法―リハビリテーション

低下した運動機能を高め、薬物療法との併用によってスムーズな運動を可能にします。 肩、背中や下肢の筋肉のこわばりを軽減して筋力を維持するために薬物治療と並行して病状の初期から体操や散歩を継続する必要があります。 歩行障害や転倒の危険がみられるときには介護保険を申請して廊下に手摺を設置することや、ベッドとトイレの室内動線を整える、ポータブルトイレを利用するなど環境整備も大切になります。 嚥下障害がみられるときには嚥下訓練や胸郭運動のリハビリも必要になります。 病状の進行に合わせたリハビリ計画のもとに運動を継続します。

手術療法およびデバイス補助療法

パーキンソン病の薬物療法で十分な効果が得られない、しだいに薬の効果が短くなり、薬を増やしたが症状が1日の内で大きく変化するウェアリング・オフで困っている場合に手術療法が考慮される場合があります。

  1. 脳深部刺激療法DBS、 deep brain stimulation:脳深部に挿入した細い白金電極から微弱なパルス信号を送り、神経ネットワークの乱れを修正してパーキンソン症状を軽減します。 一般に内服中のパーキンソン病薬も減らすことができます。
    手術は頭蓋の小孔から定位的に脳深部に細い電極を挿入します。 1960年代以降、電極の先端に小さな凝固巣を作る手術が行われましたが、現在ではより手術侵襲が少なく、その後の症状によって刺激条件を調整できるDBSに発展してきました。 定期的にパルス発生器の調整や胸部皮下に埋めこまれたバッテリー交換が必要になります。 高齢者にはあまり行われません。
  2. デバイス補助療法―反復経頭蓋磁気刺激療法r TMS: 最近、手術をすることなく脳表面(大脳皮質)を一定のリズムで刺激して症状を軽減する新しいパーキンソン病治療の可能性が開発されつつあります。頭皮上に置いた8型コイルと呼ばれる器具に一時的に高い電流を流して直下の大脳皮質 に発生する微弱な誘導電流によるパルスで脳を刺激する方法です。
    前頭葉先端部分を刺激してうつ病や一部の尿失禁を治療することはすでに保健適応となっています。 パーキンソン病の非運動症状でみられるうつ症状の改善や治療中の異常運動ジスキネジアに対する効果が期待されています。 手術侵襲はなく安全な方法ですが、効果が一時的で定期的な繰り返しの刺激が必要となります。
    以上、パーキンソン病について説明しましたが、現在、ご自身やご家族の方で心配な症状がある、心当たりがあるとお悩みの方は一度当院を受診してみてください。