脳卒中治療

脳卒中について

脳卒中とは脳内の出血や血液循環障害を原因とする疾患の総称であり、多くは脳の血管が詰まったり(脳梗塞)、破れたり(脳出血)、あるいは脳動脈瘤の破裂(くも膜下出血)で発生します。
1950年以降の30年間は、脳卒中が日本における死因の第1 位でしたが、現在は脳卒中による死因は減少して第3位となっています。しかし、最近では高齢化に伴い、脳卒中に罹患して片麻痺や失語症などの後遺症を持つ方や寝たきりの状態となる方の比率が増加してきています。卒中と言う言葉は、突然何かに当たるという事を意味します。脳卒中の症状は半身麻痺、言語障害、行動異常、視野障害、頭痛などがあり、脳卒中が発生した脳の部位によって様々な症状が現れます。
脳梗塞や脳出血の背景には、加齢や生活習慣病などによる動脈硬化があるとされます。また、不整脈によっても脳梗塞を来します。このような疾患を防ぐためには高血圧・糖尿病・脂質異常症•高尿酸血症などの生活習慣病や不整脈の管理を行うことや、禁煙を行う事が大切です。
気になる症状が起きたときには、すぐに専門医の診察を受けてください。

脳卒中治療

脳梗塞について

脳の血管が詰まる病気です。脳梗塞は大別すると3種類に分けられます。一つは穿通枝梗塞(ラクナ梗塞)です。脳の深部にある非常に細い動脈が詰まることにより比較的小さい脳梗塞が発生します。発生する場所が悪いと言語障害や片麻痺を来します。
もうひとつはアテローム血栓症と言って、脳の皮質枝という比較的大きい血管が閉塞して脳梗塞を生じるものです。太い血管が詰まりますので穿通枝梗塞よりも大きな梗塞となることが多いです。3つめは脳栓塞症といって、他の部位にできた血栓が血流により移動して脳血管を急に詰まらせるものです。心房細動と言う不整脈が原因となることが多いです。栓塞症の場合は閉塞した血管が数日後に再開通することもあります。しかし、閉塞した末梢の血管が脆弱となっているため、再開通することによって出血を合併する(出血性梗塞)ことがあります。
かつては穿通枝梗塞が多く、次いでアテローム血栓症、そして脳栓塞症の順でした。しかし、高齢化のため、最近ではこれら3つの脳梗塞はそれぞれ同程度の頻度で生じるとされています

図1 脳梗塞の種類

脳梗塞の種類

図2 当院に導入しているバイプレーン血管撮影装置

当院に導入しているバイプレーン血管撮影装置

図3 血管内ステント術

血管内ステント術

脳梗塞の治療

治療は発症から4.5 時間以内の早い時期であれば、rt-PAという血栓を強力に溶かす薬(血栓溶解剤)を投与し、重篤な症状を改善させることも可能です。しかし、発症から受診までの時間が経過し過ぎている場合など、早期の血栓溶解剤治療は時間が困難な場合が多いです。
また頚部や脳の血管が血栓により閉塞している方では、カテーテル治療により血栓を回収する治療を行うことも出来るようになってきました。血栓溶解療法ができない場合や血栓溶解療法で改善が乏しい場合などでカテーテル治療を行います。頚動脈など比較的太い血管の狭窄には血管拡張術やステント留置術を行うこともあります。
当院では、バイプレーン血管撮影装置を導入しており、「迅速かつ正確」に血管内治療が行えるようになりました。

手術中

脳出血について

脳出血は脳の細い血管がさけて脳内に出血する病気です。脳卒中の約10%を占めます。原因は高血圧症による出血が多いとされています。
小さな出血の場合は、たとえ、麻痺や言語障害の症状が強かったとしても命の危険は少ないです。しかし、大きな出血だと意識障害を来し、生命の危険にかかわる場合があります。

高血圧について

病院や健診施設などで測定した血圧値が、収縮期血圧140mmHg以上または拡張期血圧90mmHg以上(140/90mmHg以上)の状態をいいます。
血圧の基準は年々変化し、30年以上前には高血圧症の基準は160mmg/90以下にする事を目標にしていましたが、最近では家庭血圧において75才未満では125/80未満、75才以上では135/85にする事が目標となっています。治療に関しても、最近ではたくさんの血圧を下げる薬(降圧剤)ができており、多くの施設で処方されますので、脳出血を来す方もずいぶん減少しました。

脳出血の治療

小さい脳出血の場合では降圧剤や止血剤の投与による治療(保存的治療)を行います。
比較的大きい脳出血の場合には定位脳手術を行っております。定位脳手術とは、術前にCT検査を行って脳出血の部位を計測しておき、手術の際には頭蓋骨に直径3cm程の小さい穴を開けて、そこからチューブを留置して血腫を除去する方法です。侵襲は少なく局所麻酔で行える治療法です。
出血が巨大なものであれば、急激な頭蓋内圧亢進を来し、生命にとって危険なため、救命のため開頭術を行って血腫を除去する場合もあります。

図4 脳出血の成因

脳出血の成因

くも膜下出血について

くも膜下出血の発生の頻度は一年で人口10万人あたり20人程度です。日本では好発年齢は50~70歳代で、男性よりも女性の発症率が全世代で高くなっています。脳動脈は主としてくも膜下腔を走行しており、そのため、脳動脈瘤が破裂するとくも膜下に出血します。
症状としては、鈍器で頭を殴られたような頭痛が突然起きると言われますが、出血が少ない人は軽度の頭痛のみで、本人も風邪を引いた様な症状だけのこともあります。一方で、出血が多い人は意識がない・突然死にまで至ることもあり、幅広い症状を来します。

くも膜下出血の治療

一度破裂した動脈瘤は20%以上の人が再破裂して症状の悪化・死亡を来してしまうため、できるだけ早い時期に手術を行います。
手術方法は開頭によるクリッピング術やカテーテルによるコイル塞栓術が行われます。通常手術は破裂後3日以内に行うことが最適とされています。 手術により再破裂を予防したあとは2週間くらい持続する脳血管れん縮(血管が細くなり脳梗塞をきたします)が生じますので、点滴治療などでその予防・治療を行います

図5 開頭術による脳動脈瘤頚部クリッピング

開頭術による脳動脈瘤頚部クリッピング

図6 血管内手術によるコイル栓塞術

血管内手術によるコイル栓塞術

上記の病気ではいずれも軽度から重度まで様々な症状・後遺症を来すことがあります。点滴治療・手術だけではなく、入院後のできるだけ早期にリハビリを開始し症状の改善を図る事が重要です。