TMS治療
経頭蓋磁気刺激治療(TMS)
経頭蓋磁気刺激療法(TMS)とは
当院では平成25年4月からこのTMS治療を開始しています。
TMS治療とは、コイルを頭に当て磁力にて脳神経細胞を刺激する治療です。
刺激コイルから発生した磁力は、痛みを伴うことなく大脳に限局的な刺激を与えます。
刺激する場所によって上肢麻痺や下肢麻痺だけでなく失語症や嚥下障害、パーキンソン病やうつ病にも適応があり、必ず照射後にはリハビリテーションが必要となります。
大脳における半球間抑制
ヒトの大脳は左右に分かれており、右の大脳は左半身の運動・感覚を支配し、左の大脳は右半身の運動・感覚を支配しています。
左右の大脳は脳梁という組織でつながっており、脳梁を介して、お互いがお互いの脳を同じ程度に抑制しあっています。これを半球間抑制といいます(図1)。
その結果、左右の大脳半球の神経活動はバランスよく、左右同程度に保たれているため、スムーズな運動が可能になっております。しかし、脳卒中を起こすと、左右の大脳のバランスが崩れ、脳卒中を起こした大脳の活動性は低下し、反対側の脳の活動が過活動となります。
活動性が低下した大脳は、活動が過活動化した大脳によって更に機能を抑え込まれ、運動麻痺が更に悪化するという悪循環を作ってしまいます(図2)。TMS治療はこの半球間抑制を是正します。(図3)
図1
図2
図3 経頭蓋時期刺激装置
TMSって何?どんな効果があるの?
磁気刺激治療(Transcranial Magnetic Stimulation:TMS)は刺激コイルを頭の上に当てて大脳を刺激する装置です。その仕組みとしては、コイルから電流が流れ、コイルの平面と垂直方向に磁力が生じて頭蓋骨を通過します。その磁力によって大脳に刺激を与えます。刺激の内容ですが、1Hz以下(1秒間に1発)は低頻度刺激、5Hz以上(1秒間に5発)は高頻度刺激といわれております。低頻度刺激は大脳の活動を抑制させ、高頻度刺激は大脳の活動を促通する効果があります。運動麻痺の治療以外にもうつ病や嚥下障害にも用いられるようになってきています。また、最近ではパーキンソン病、認知症、あるいは慢性疲労症候群にも効果があるといわれています。
TMS治療は刺激を与える頻度によって2つに分けられます
低頻度刺激
健康な側の脳をコイルから発生する磁気で、1秒間に1発以下の低頻度で刺激することによって間接的に障害を受けた脳を活性化させます。
高頻度刺激
障害を受けた側の脳をコイルから発生する磁気で、1秒間に5発以上の高頻度で直接刺激を行い、障害を受けた側の脳の神経活動を活性化させます。
対象疾患
- 脳血管障害、脳血管障害による上下肢麻痺、失語症、失調、嚥下障害
- 脊髄疾患
- パーキンソン病
- 嚥下障害
- うつ病
- 慢性疲労症候群
※刺激頻度は医師の診断で決定致します。
刺激頻度の使い分け
脳卒中後の上肢運動麻痺では、一般的に低頻度刺激を用います。しかし、これは発症から6カ月~1年以上経過した方に行っております。この期間では大脳のアンバランス化は顕著になっており、麻痺手の使いにくさから、健側手を多く使用することが多くなっています。そこで発症後1年以上の方は、過活動を起こした健側大脳に低頻度刺激を行い、活動性を抑え半球間抑制の改善に努めます(図4)。
一方で上肢運動麻痺において高頻度刺激を全く用いないということではありません。脳卒中を発症した後、病側大脳は途絶した神経経路から新たに神経経路を作る働きがあり、これは発症後から3カ月まで急速に行われます。つまり、この期間に病側大脳に対して高頻度刺激を行うことによって、さらにその働きを向上させ、麻痺手の改善を図ることが可能となっております(図5)。
当院ではこのように脳卒中の発症時期や部位によってTMSの刺激方法を使い分けております。また、パーキンソン病へのTMSにおいても、新たな刺激方法であるシータバーストという刺激方法も行っております。
図4
図5
TMS治療とリハビリテーション
一般的に脳卒中発症後の運動機能の改善期間は半年から一年以内といわれ、後遺症として手足の麻痺や食べにくさが残存し苦しんでいる患者様は多数おられます。
しかし、TMS治療と集中的リハビリテーションを実施することにより、脳卒中発症後数年経過していても、手足の動かしやすさやコミュニケーション、食べ物の飲み込みに改善が得られます。
その方に合ったオーダーメイドのリハビリを提供させていただきます。
上肢麻痺・失語症・うつ病や慢性疲労症候群用コイル
脳の上肢運動領域や言語領域部位、またうつ病や慢性疲労症候群用に左前頭部を照射するコイルです。
下肢麻痺・パーキンソン病用コイル
下肢麻痺の方は脳の下肢運動領域に、パーキンソン病の方は脳の前方にある補足運動野に照射するコイルです。
嚥下障害用コイル
舌骨上筋群の筋肉と神経を促通するコイルです。
リハビリスケジュールの例
※横スクロールでご確認ください。
入院日 | 2日目 | 3日目 | 4日目 | 日曜日 | 14日目 | 15日目 退院日 |
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AM | 外来受診 | TMS (20分) |
TMS | TMS | TMS・リハビリ なし |
TMS | 医師の 結果説明 |
入院手続き | リハビリ | リハビリ | リハビリ | リハビリ | 退院手続き | ||
自己トレ | 自己トレ | 自己トレ | 自己トレ | ||||
PM | 入院オリエン テーション・ TMS位置決め |
TMS (20分) |
TMS | TMS | TMS | ||
リハビリ | リハビリ | リハビリ | リハビリ 退院時評価 |
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リハビリ 評価 |
自己トレ | 自己トレ | 自己トレ | ||||
リハビリ | リハビリ | リハビリ | リハビリ |
※日曜日はお休みとなっております。
TMSを当てた後、午前・午後2回リハビリを実施します。その後、その方の状態に合った自己トレーニングを提供させて頂きます。
理学療法士、作業療法士、言語聴覚士により
個別的なリハビリを行っています。
どんな麻痺の状態でもTMSの効果は同じ?
TMSの効果ですが、麻痺の重さによって効果が変わってきます。最も効果が得られやすい状態は、人差し指から小指の4本の指が自分の力で伸ばせる方です。また指折りが可能な方も十分に効果が得られ、物を摘まむ動作や日常生活での使用頻度の向上が得られます。
治療前後でのTMS治療の検証と退院後のフォロー
まず、入院時に麻痺手の日常生活での使用頻度や、麻痺の程度、把持・摘まみ動作の能力をリハビリスタッフが評価を行います。また機能的MRI(fMRI)で麻痺側を動かした際の脳の活動を確認します(図6)。
そして同様の評価及び検査を退院時に実施し、今回の治療の成果と今後の治療や自主訓練の説明を行わせて頂きます。
図6
TMS治療とボツリヌス治療の併用
TMS治療とボツリヌス治療の併用は可能です。TMSを行う前に上下肢の運動評価を行い、痙縮がどの程度かを把握した後にボツリヌス注射を行い、その後TMS治療を行います。その方がTMSの効果を一層引き出すことができるというメリットが有ります。TMS照射は年に1~2回程度、ボツリヌス注射は約3ヶ月に1度、行っています。
慢性疲労症候群(コロナ後遺症 等)とは
- 強い倦怠感
- 咽頭痛や微熱、リンパ腫大、頭痛、脱力
- 思考力の低下や抑うつ
- これらの症状が長期持続し、日常生活にも支障が及ぶ病態。
いわゆる自律神経失調症やうつ病、線維筋痛症などとの 異同が問題になりやすい。
近年 TMS治療 が慢性疲労症候群の治療のひとつとして有効と言われています。